一緒に食べようよ
普段はあまり意識はしていないが、この日になり、自分の義兄弟であるジョナサン・ジョースターは女性に人気なのだと再確認する。
「大量だな」
「ありがたいことにね」
彼の目の前のテーブルには女性から贈られたチョコレートが積まれている。
彼が家に帰ってきたときにチョコレートを抱えていたし、家にも直接、女性が届けにきたり、贈られてきたものもあった。
誰から贈られたものか確認している彼を見ていた。
顔は端正な顔立ち、背も高く体格も良い。頭は悪くないし、運動神経もいい。性格も紳士であり、ジョースター家の跡取りの長男。
自分にとっては忌々しい存在だが、他人から見れば、嫁ぎたいと思えるほどの人物なのだろう。
しかし、彼は女性とは関係を持たないようにしている。
幼い頃の恋人を彼は未だに想っているらしく、告白をされても全て断っているのだ。
「あの……ディオはくれないのかい?」
「こんなに貰っていて、まだ欲しいのか」
彼の言葉に笑ってしまう。食べきれないほどの量を貰っているくせに。このチョコレートの消費を手伝ってほしいと自分を呼んだのだろうに。
「君から貰いたいんだ」
身近な家族に貰いたくなるものだろうか。
持っていた小箱を彼に投げ渡す。
「わざわざ、買ってやったんだ。ありがたく食え」
他人が用意しているのに、用意しない訳にもいかない。
しかも、何を言われるか分からない。自分から貰えなかったことを他人に言われないためにも。
そう思い、毎年、チョコレートは用意している。最初は彼にチョコレートをあげる存在がいないと思って哀れみで用意をしていたが。
チョコレートを受け取ったジョナサンはとても嬉しそうだった。
「ありがとう! ディオ! 君のを一番最初に食べたいから」
毎年、そうなのだ。彼は自分のを一番最初に食べ、その後に他のものを食べる。
彼が好きなブランドのチョコレートのはずなのだから、味は知っているだろうに。
彼は自分のチョコレートの箱を開け、一つ摘まみ口に放り込む。
「…………」
彼は口を動かしながら、期待を裏切られたようで、こちらを見てくる。
「口直し用だ」
彼に送ったのはビターチョコレートだ。甘いものばかりでは飽きるだろうという配慮。去年は苦いものも欲しいとこぼしていたからだ。
「早く言ってほしかった……でも、ありがとう。苦くてもおいしいね」
彼は違う箱を取り、開けていく。その中にあったのは小分けにされている小さなハート型のチョコレート。彼は一つ取り、箱をこちらに差し出してくる。
箱に残っているチョコレートを一つ取り、食べている彼に甘いか問う。
「うん。君のチョコレートのお陰でとても甘く感じるよ」
「それは、良かったな」
チョコレートを口の中に放り込めば、舌が甘さを感じていく。
控えめな甘さにおいしいと思う。
次々と自分の目の前には、箱が置かれていく。
少しはゆっくり食えばいいのにと彼を見て、パクパクとチョコレートを食べていた。見ているだけで胸焼けしそうだ。
「どうしたんだい? おいしくなかった?」
「いや……よく食べられるな」
「おいしいからね」
おいしくても限度があるだろうと思いつつ、自分もチョコレートを食べていく。
しかし、途中で手が止まる。口の中が甘い。
「ジョジョ」
まだチョコレートを食べている彼に持っていたチョコレートを彼に差し出す。
「……もう無理だ」
吐き気を覚え、口を手でおさえる。
彼は差し出されたチョコレートを食べるときに、指ごと食べられ、固まってしまう。
濡れた舌が指に触れ、チョコレートを指から取っていった。
「ああ、ごめん」
彼は懐からハンカチを取り出し、指を拭っていたが、それを振り払い、立ち上がる。
「手を洗ってくる」
足早に部屋を出ていき、水場に急いだ。
扉が閉まったのを見て、ジョナサンはディオの機嫌を損ねてしまったのかと苦笑した。
彼女がチョコレートを差し出してきたので、食べただけなのだが、あれは手で受け取るべきだったか。
彼女から貰った苦いチョコレートを全て食べて、後は明日に彼女と一緒に食べようと開けていた箱を閉じた。
きっと彼女は部屋には戻って来ないだろうから。
一人で食べても、寂しいだけだ。
「一緒に食べてくれるかな……」
今のうちに謝っておこうかと、立ち上がり、部屋を出て、彼女を探していると、階段を登ってくる彼女がいた。
名前を呼ぶと、彼女は不機嫌そうにこちらを睨んできた。やはり機嫌を損ねているようだ。
「ごめん。あの……チョコレート、どうしようか?」
「明日、食べる。置いておけ」
「明日、また一緒に食べようね」
「……ああ」
短く彼女は返事をし、自分の横を通り、自室へと帰っていく。
「一人で食いきるんじゃあないぞ」
「うん」
パタリと閉まった扉。
自分も部屋に戻り、彼女の分の箱を取り分けておく。
部屋の甘いにおいが妙に虚しかった。