膝枕と万年筆


「ジョジョ、プレゼントは何がいいんだ?」
誕生日の少し前に、ディオに聞かれ、ジョナサンは頭を抱えた。
気持ちだけで充分なのだが、彼女から何かを貰えることは、滅多にない。こちらから何かを贈ることはあっても。
そんな貴重な機会を逃せない。
「なんでもいいというなら、文句を言うなよ」
そう言う彼女は、含みがある笑みを浮かべていた。これは、言わなければ、何を贈られるか分かったものではない。
「迷ってるから、少し待ってよ。必ず言うからさ」
「さっさと決めろよ」
「うん」

そんな約束をしたのだが、もう誕生日が明日に迫っていた。今日だって、苛々しているディオに何が欲しいのかと、迫られて、まだ決めてないんだと弱々しく返せば、呆れられ、どこかにいってしまった。
しかし、迷ってしまう。
彼女が自分のために贈ってくれるものだ。一つに絞るのが難しい。
「うーん」
明日までに決めなければと思えば思うほど、焦るだけで、何も決まらない。

誕生日当日。父からや使用人たち、友人にプレゼントを貰い、部屋に置いているプレゼントを見て、笑顔にはなれなかった。
まだ、ディオに何を贈ってほしいか言っていない。
そのためか、今朝の彼女はどこか不機嫌だった。
物ではないものをもらおうと思ったのだが、それは二人きりのときにしてほしくて。
もしかしたら、嫌と言われるかもしれない。
でも、言うだけ言ってみようかと、彼女の部屋に向かう。
彼女を訪ねれば、ソファーに座っており、不機嫌な顔で睨みつけられると、顔をそらされた。
「ディオ」
名前を呼ぶが、こちらを見てくれない。
「わたしからのプレゼントなんて、いらないんだろう」
そう吐き捨てる彼女の怒りが、声の節々から分かる。
言わなかったのは、今まで迷っていたからなのだが、自分が悪いので、機嫌を直してほしく、謝る。
「ごめん。迷ってたんだ」
「ほう、決まったのか。聞くだけ、聞いてやる」
その言葉に貰えそうにないと、残念に思ったが、僅かな望みにかけて、言うだけ言ってみる。
「うん、あのさ、膝枕……してほしいんだ」
少し照れくさく、頬をかく。
「は?」
ディオは目を丸くして、こちらを見る。予想外の回答だったらしい。物だと決めつけていたようだ。
「そんなものが、いいのか?」
「うん」
彼女からは、誰にでも貰える物ではなく、彼女だけが持っているものが欲しかった。
強いて言うなれば、体温。すぐ近くにあるそれが、欲しかった。
本当は、口づけをと言うつもりだったのだが、そんなことを言えば、この汚らしい阿呆がと、ビンタがとんでくるのが容易に想像できたため、やめた。
「だめ、かな?」
そう問えば、彼女は立ち上がり、ベッドに座る。
「ふん、わたしにしてもらえることを光栄に思え」
彼女は、促すように自分の膝を軽く叩く。
「あ、ありがとう!」
こんなにも、あっさりと了承してもらえるとは、思っていなかったため、驚いていたが、嬉しいという気持ちが上回り、笑みを浮かべる。
彼女のそばまで行き、ベッドにあがる。
「じゃあ……」
ベッドに横になり、彼女の膝に頭をのせる。
柔らかさと濃くなる彼女の香りに、鼓動が早くなっていく。
「こんなのがいいなんて、無欲だな」
見上げる彼女は、呆れていた。
無欲ではない。今も欲に忠実に動いているだけだ。
今、この二人きりの状況なら、口づけをすることも、力任せにすれば、容易だろう。こんなにも体格差があるのだから。
肩を押し、ベッドに押しつけ、彼女に覆い被さって、口を重ねてしまえば。
そんなこと、紳士がすることではないため、行動にうつすことはない。
今は、これで満足だ。
彼女に無事にプレゼントを貰い、安心したのか、眠くなってきて、まぶたを閉じる。
「眠い……ちょっと付き合ってよ。ぼく、君に貰うプレゼントに悩みに悩んで、あまり寝れてないんだ」
「そんなこと知るか……が、今日はお前の誕生日だ。ちょっとだけなら、付き合ってやる」
ひねくれた物言いだが、膝枕は続行されるようだ。嫌になったら、起こしてくるだろうと、眠りに落ちた

ジョナサンが目を覚ましたのは、額に痛みを感じたからだ。
「いっ……!」
「起きろ」
額に何かあたっていたが、すぐにそれは、離れていった。ぼやけた視界では、それが何かは分からないが、ディオが顔を近づけていたのは分かった。間近に彼女の顔があったから。
「退け」
彼女の顔が離れていく。
「分かったよ」
名残惜しいが、彼女は、自分の昼寝に付き合ってくれたのだからと、起きあがる。
「重かったぞ」
「ごめん」
謝りながらも、今、何時だろうかと時計を見れば、眠ってから結構、時間が経っていた。彼女は、なんだかんだ言って、自分の昼寝に長いこと付き合ってくれたのだ。起きるのを、待っていてくれていたのかもしれない。
「ふふ、ありがとう、ディオ」
笑顔を向ければ、うるさいと彼女が何かを投げてきた。それを受け止める。なんだと見れば、長細い箱。丁寧にラッピングされているそれに、首を傾げる。
「何これ?」
「見て分からないのか」
見る限りプレゼントなのだが、だとしたら、これはわざわざ、彼女が用意していてくれていたことになる。
「プレゼント?」
一応、聞いてみる。
「……そうだ」
顔をそむけられていたが、見る横顔は、ばつが悪そうに見える。
「ねえ、開けていい?」
「ああ」
それを開ければ、高そうな箱。そこから、出てきたのは万年筆だった。安物ではなく、高級品だ。
「これも、くれるのかい?」
「お前がなかなか、決めないから一応な。用意していないと文句を言われるのも嫌だからな」
「ありがとう!ディオ!!」
二つ目の贈り物に、それを握りしめたまま、彼女に抱きついた。とても嬉しく、感謝の言葉では足りないと、その気持ちを表すよう、力強く抱きしめる。
「なっ……は、離せっ!!」
肩や胸を押され、抱擁を解けば、彼女は顔を赤くしていた。
「で、出てけ!この変態!!」
枕を投げられ、それを受け止めるが、何度も出て行けと言われ、罵詈も飛んでくる。彼女の機嫌を損ねてしまったと、大人しく出ていくことにする。
ごめんと謝り、投げつけられた枕を置き、彼女の贈り物を手に持って。
「嬉しかっただけなんだけどなあ……」
部屋を出て、呟く。
二つも、ディオから貰えるなんて。
今日はとてもいい誕生日だと、その万年筆と彼女の体温を思い出し、笑顔になりつつ、自分の部屋に戻った。





後書き
誕生日おめでとう!ジョナサン!!
今年も遅刻です
誕生日だから、ディオも今日だけ優しいのです


2014/04/11


BacK