三人寄れば寂しくない

 土方歳三と近藤勇は二人とも赤い顔をしながら、帰路についていた。久しぶりに飲み、二人は少しふらつきながら、今しがた飲んだ酒の話や、店で暴れていた客を取り押さえた話をしていた。
「早く帰ってやるかー、総司が寂しがる」
 近藤の言葉に土方は手を振った。
「あいつなら、ぐーすか寝てますよ」
「分からんぞ。健気に待ってるかもな」
 まさかと苦笑を返す。今日は帰りが遅くなるから早く寝ろと言って、出てきたのだ。ついてこようとしたが、酒屋に子供は入れないし、何より夜道は危険だ。
「……土産を待ってるかもしれませんね」
 土産を買ってくると言うと彼は諦めたのだ。ということで、自分の手には栗饅頭がぶら下がっている。
「かもしれんなぁ」
 夜道に近藤の大きい笑い声が響いた。

 土方たちは家に着き、自分たちの寝室へと向かうと、こちらに向かってくる足音が聞こえた。
「お、待ってたみたいだぞ」
「土産を、でしょう」
 自分たちの目の前に現れた沖田総司はいきなり、自分に抱きついてきた。
「おい、そんなに……」
 土産が楽しみだったのかと思ったが、彼の体が震えていた。耳に届くのはすすり泣く声。
「どうした!? どこか痛いのか……!」
 沖田は返事をしないまま、抱きつく力を強くする。
「おい……」
 怪我をしていたら、手当てをしなければと彼の体を見ようと自分から離そうと肩を置いたが、その手は近藤によって背中に回された。
「まあ、抱きしめてやれ、トシ」
「近藤さん?」
 意味が解らないと彼を見るが、近藤は自分から栗饅頭を取り、微笑みながら沖田の頭をなでると、先に寝ると言って背を向けた。
 沖田と二人きりにされ、まだ泣いている彼を抱き上げ、顔を見ようとしたが、肩に顔を押しつけたため、見えない。背に回る手は力いっぱい着物を掴む。
「どうした? 俺たちがいなくて寂しかったのか?」
 宥めるように背を擦り、優しく叩く。
「ゆめ、で……二人が置いて、いくから……」
 小さな声は震えていた。夢見の悪いものを見たらしい。彼はときどき、悪夢にうなされている。その度に近藤や自分の寝床に入り込んでいた。
「夢だろう。俺たちはお前を置いていかない。近藤さん だってそう言っただろう」
「……ずっと一緒にいてくれる?」
 彼は肩に顔を押しつけるのをやめ、顔を見合わせてきた。片方だけ見える大きな目からは、まだ涙が流れていた。
「ああ」
「ホント?」
 目は不安そうな色をしていた。
「ああ、一緒にいてやる。もう寝るぞ。土産は買ってきてやったが、明日、食べろ」
 彼の背にまた手を回し、抱きしめて歩き出す。
「はーい」
その返事は元気な声だった。

翌朝。朝食のとき、沖田は目を腫らしてはいたが、満面の笑みだった。
「ぼく、土方さんとずっと一緒にいるんだ!」
その発言にご飯をよそっていた土方が動きを止めた。
「お、良かったな、トシ。かわいい総司が一緒にいてくれるなんてな」
 いつもの笑顔で何か含みのある言い方をする近藤。
「こ、近藤さん……!」
 土方は何か言いたそうだったが、分かってると近藤が言うと少々、不服そうに黙った。
「近藤さんも一緒だよ! ずっとね!」
「ああ、勿論だとも」
「は、早く食べますよ!冷めますから」
 土方がそれぞれに茶碗を渡すと、二人はそれを受け取る。
「いただきます」
「いただきまーす」
「……いただきます」
 三人の挨拶が重なり、いつもの朝が始まった。





後書き
無料配布小説でした
ジョジョのオンリーと幕末Rockのオンリーがしていたときに発行したもの
ほのぼの三人を書きたかったので


2015/09/02


BacK