姫と騎士と花冠

ヘンドリクセンが城の書庫で調べものをしていると、服の裾をひっぱられ、そちらを見てみると本を抱えている第三王女のエリザベスがいた。いつの間に入ってきたのだろうか。
「気づかず、申し訳ありません。なにかご用ですか? エリザベス様」
見ていた本にしおりを挟み、閉じ、彼女の方に向き直る。
「これを読んでほしいの!」
彼女が差し出してきたのは、少しくたびれた本だった。
太陽姫と夜騎士の冒険という題名のその本の表紙をめくると、挿し絵が描いてはあったが、文章は幼い彼女には少々、難しいものだった。
「これね、ベロニカ姉様に読んでもらってたの……続きを読んでもらおうと思ったんだけど、グリアモールと遊んでて、後でって。マーガレット姉様はいないし……みんな、忙しいって」
第二王女のベロニカはグリアモールとよく一緒にいる。グリアモールが亡くなった王妃にじきじきに言われたためらしい。
第一王女のマーガレットは今日はギルサンダーと共に町にいっているはずだ。護衛にザラトラスとドレファスがついているはずだ。
侍女たちも今は忙しい時間だろう。
エリザベスは悲しそうな顔をしていた。もう少し待っていれば、仕事を終えた侍女たちが相手をしてくれるだろうが、彼女は待ちきれないのだろう。
「この本を読めば、よろしいのですね?」
そう言うと彼女は笑顔になり、力いっぱい頷く。
彼女を隣の椅子に座らせたが、彼女には少々、高いようで、本を見るには見辛そうだった。失礼ながらも、自分の膝の上に座ってもらうことになった。
彼女がしおりを挟んでいたページを広げる。彼女はしおりを手に取り、本を見ていた。
「姫は大きなドラゴンにさらわれてしまいました。大きな傷を負いながらも、騎士は自分に助けを求める姫を懸命に追いましたが、空を飛ぶドラゴンには追いつけず――」
ゆっくりと文字を読みながら、その文字を指でもなぞっていった。

「太陽姫と夜騎士は色とりどりの花に囲まれたお城で幸せに暮らしましたとさ――おしまい」
夜騎士が姫に花冠を乗せている絵を最後に話は終わり、しおりを挟んで本を閉じる。
「ありがとう! とっても楽しかった!」
彼女は頭を上げ、こちらを笑顔で見上げる。
「お褒めいただき、光栄です」
彼女を満足させたことができたようだ。
「エリザベス様」
部屋に侍女が入ってくる。自分に頭を下げてきた。
「おやつの時間ですよ」
エリザベスが自分の膝の上から降りようとしたので、彼女を持ち上げ、膝から下ろす。
机の上の本を取り、椅子から立ち上がり、彼女の前で膝をつき、本を手渡す。
「またね、ヘンドリクセン」
彼女は受け取った本をまた抱えると侍女と一緒に部屋を出ていった。
頭を下げてその姿を見送り、また椅子に座り、しおりを挟んだところから読むのを再開した。

城の廊下をヘンドリクセンが歩いていると、名前を呼ばれ、振り返れば、エリザベスがこちらに走ってきていた。
「屈んで!」
そう言う彼女は後ろに何かを隠しているようだ。なんだろうとその言葉どおりに屈めば、彼女は懸命に背伸びをして頭に何かをのせる。
「本を読んでくれたお礼!」
匂いと触れた感触で花の冠だと分かった。
「それね、一番、うまくできたんだよ!」
姉のマーガレットに教えてもらって作ったと彼女は言う。
「ありがとうございます」
お礼を言えば、彼女は嬉しそうに笑い、また本を読んでねと言うと、走り去っていく。

その日、一日、花冠をつけたままのヘンドリクセンを物珍しそうに同僚たちや町のものは見ていた。





後書き
ヘンドリクセンとエリザベスちゃんでした
小さい頃のエリザベスちゃんが花冠を作っていたので、ヘンドリクセンに被せてみました


2015/08/18


BacK