嫉妬

地が揺れ、フリアエは祈りをやめた。その必要がなくなったから。
それは、兄が帰ってきたという証だ。
テントを出ると、見えた紅いドラゴン。あれに兄は乗っているはずだ。
怪我はしてないだろうか、早く姿が見たい。
ドラゴンの元へと走る。後ろから呼び止める声が聞こえたが、それよりも優先すべきなのは、兄の無事を確かめることだ。

「兄さん……!」
近寄る小さな存在をアンヘルは見下ろす。
「女神、お前の兄は敵を発見し、追いかけたぞ」
目当ての人物がいないとわかると、フリアエは酷く落胆した。
「そう、ですか……」
敵の排除は、フリアエのためでもある。そんな考えもなしに、カイムは嬉々として向かっていっていた。
「あの、兄さんは怪我はしていませんか……?」
「心配するような怪我はしていない」
カイムが怪我をすればアンヘルも同じように傷つく。所々、切り傷があるが、微傷と呼べるものだろう。しかも、本人は敵を追いかけていったのだから。
「……そうですか」
弱々しい笑顔。しかし、その目は、あまりにも暗い。
目は口ほど物を言うとよく言う。フリアエからの視線は、全て羨むようなものだ。
実際、彼女は兄に対して、家族以上の想いを持っている。それは端から見ても気づくものだが、兄のカイム自身は気づいていない。フリアエも自分しか知り得ないものだと思っている。

なぜ、あなたが傍にいるのか。
なぜ、私ではないのか。
ようやく兄の傍にいられると、喜んだのに。
その役目は私のはず。
私があなたならば、いいのに。
そうすれば、片時も離れず、ずっと、ずっと、ずっと……。

そんな言葉が、目からは流れている。
嫉妬というものだろう。そんな感情を向けられるのは、初めてだ。しかも、別種族から。
しかし、カイムはフリアエのために、自分と契約し、今も戦っている。
それだけでは、足りないのだろう。彼女が求めているのは、そんな愛ではない。
「!」
カイムの呼ぶ声が聞こえ、掃除が終わったことを告げられた。
「女神よ、兄はすぐに帰ってくるぞ」
そう言うと、フリアエはとても嬉しそうに笑う。
契約者を迎えに行くために、飛び立つ。

単一生殖のドラゴンが愛を理解するのは、家族がいなくなったカイムの愛情がアンヘルへと注がれた時だった。



後書き
女同士の戦い
フリアエはアンヘルに羨ましがって、嫉妬しているんだろうなと
お兄ちゃん大好きですから
アンヘルはそれに戸惑っているといい

2012/09/13

BacK