気になる存在
「すげえな」
部屋に運ばれてくる贈り物を見て、ミスタは驚きの声をあげる。
部屋を覆い尽くそうとしているのは、この部屋でうんざりしたように座っている少年、ジョルノ・ジョバァーナ、一人に贈られたものだ。
ギャングを牛耳る若いボスに媚を売ろうとしている幹部たちや、地位の高い家の娘たちからだ。
その出で立ちは、人を惹き付ける何かがあり、彼はボスになる前から、女性には黄色い声をあげられていたため、交流があった女性から、一方的な好意を持たれることも少なくない。
ミスタは一つ、贈り物を手に取り、見る。
「チョコレート……?」
その箱は、チョコレートで有名な店のロゴが書かれている。
「ぼくが生まれた国では、バレンタインにチョコレートを贈ると言ったらコレですよ」
ジョルノは持っていた箱を机に投げる。それも、チョコレートらしい。
だからかと、ミスタは納得する。ボスに気に入られようと、どの者も必死らしい。そんなことで、なびくジョルノではないが。
「食べたいなら、食べていいですよ」
「マジ!?」
箱を開ければ、小分けにされたチョコレートが入っており、それを一つ口の中に放り込む。
「うめえええ!」
最高級のチョコレートが不味いはずはない。ミスタはそれを味わうこともなく、次々と食べていく。
「ミスタ、運ぶのを手伝ってくださいよ」
箱を抱え、不機嫌そうにフーゴが入ってきた。
「まだまだ、あるんですから」
ミスタはコレが食い終わったらと言ったが、まだあったはずのチョコレートはなくなっていた。
「勝手に食うんじゃあねえッ!ピストルズッ!!」
ミスタの周りに、彼のスタンドが浮かぶ。
「ミスタだけ、ズルいぜ」
「おれたちも食いてえよ!」
「たくさん、あるんだから、いいじゃあねえか」
「お前ら、食っても何もないだろうがよ〜ッ!」
そんな言い争いを呆れたように見つつ、フーゴは抱えていた箱をジョルノの前に置く。
「トリッシュからです、ジョジョ」
トリッシュは、今や、この国で知らぬ者はいない歌姫だ。この組織の元のボスの娘で、ジョルノたちが命がけで守った存在。
リボンに挟まっているメッセージカードをジョルノは取り、開く。短いメッセージが彼女の字でしたためられていた。
「ミスタやフーゴの分もあるようですよ」
「ありがたいですね」
「あいつに礼しねえとなぁ」
ジョルノがリボンを解き、箱を開けると、詰められているお菓子。プリンやクッキー、チョコレート。それぞれが小分けにされ簡単なラッピングがされていた。
カードに書かれていたように、それぞれ手に取る。
ミスタはそれを食べようとしたが、フーゴが手伝えとミスタを部屋から引きずり連れていこうと、扉を開けるが、立ち止まった。
「シーラE」
扉の前には、少女がいた。
フーゴは共に仕事をしたことがあり、彼女とは顔見知りだ。
「ジョジョ様、いる?」
彼女は袋を持っており、勘づく。
「ああ、いるよ。ほら、ミスタ……」
ミスタを引っ張っていこうとすると、止められた。
「ミスタ様にも用事があるわ」
「だとよ」
ニヤニヤしていう彼を離し、それが終わったら来いと言い残し、荷物を運ぶためにそこから足早に去った。
ジョルノは目の前に立ったシーラEを見る。
大事そうに抱える袋を見て、自分たちに渡したいものがあるのだと、立ち上がり、部屋にある贈り物を驚いたように眺める彼女の前に立つ。
「ぼくに何か用?シーラE」
名前を呼べば、彼女のがこちらを見るが、頬が色づき、目をそらされた。
「あ、あの……これを……!」
頭を下げられ、おずおずと差し出されるラッピングされた袋。
これが、幹部を狙う部下の娘ならきっぱりと断るのだが、彼女は数少ない信用している人物だ。
その気持ちや贈り物は素直に嬉しい。
「ありがとう。シーラE」
それを受け取ると、彼女は真っ赤になった顔をあげる。感謝の意を大いに表すように、笑顔を向けたが、彼女はまた顔を下げてしまった。
「いえっ……もったいないお言葉です……!」
そんな様子を羨ましそうに見ていたミスタが寄ってくる。
「俺の分は?」
そう言われ、シーラEは気づいたようで、慌てて顔を上げ、彼にも差し出した。
「コレです!」
「ありがとうよ、シーラE」
ミスタが受け取ると、ピストルズたちが囃し立てる。うるさいとミスタが怒鳴るが、何も変わらない。
シーラEは、扉を見て、何かを待っているようだった。
まだ彼女は、大切そうに袋を持っている。
「ミスタ、早く手伝ってください。ああ、シーラEでも……」
彼女の目的の人物が、部屋に入ってきたが、荷物をどこに置こうか迷っているようで、シーラEはそんな彼に話しかけようとしていたが、そのタイミングを計りかねているようだった。
「フーゴ、荷物をミスタへ」
「あ、はい」
フーゴは、指示通りに彼に持っていたものを渡した。
「なんで、おれなんだよ〜!」
文句を言う彼を無視し、二人の名前を呼ぶ。
「紅茶を買ってきてくれないかい?甘いものにあうものを。ああ、二人でね」
フーゴは、まだ荷物がと気にしているようだが、それはミスタに任せてと言い、二人を使いに出す。
急がなくていいと付け足して。
「紅茶か。そういえば、ジョジョは喜んでいたかい?」
紅茶を取り扱っている店を思い出しながら、隣にいる少女に成果を聞く。
「ええ」
そう答えるシーラEは、どことなく不機嫌だ。あまり反応は良くなかったのだろうか。
「何、渡したんだ?」
「これ」
投げて寄越してきたのは、ジョジョに渡すための贈り物を入れていた袋。ゴミを渡されたかと思ったが、中を見れば、リボンでラッピングされた袋が一つ入っていた。
「クッキーよ」
「へえ」
彼女にも、ちゃんと女性らしいことをするのだ。心酔しているジョルノのために頑張ったのだろう。
それを返そうとしたが、顔をそらされ、あげると押し戻された。
「ついでよ。ジョジョ様に信用されてるから」
「ありがとう」
理由はどうであれ、贈り物は嬉しいため、お礼を言った。
部屋に戻ってきたのは、フーゴだけだった。その手には、ティーセットとシーラEが持っていた袋。
もう贈り物は、他の場所に保管となり、運んでいたミスタは、疲れて長椅子に座っている。
フーゴは机にティーセット、椅子に袋を置くと、カップに紅茶を入れていく。とても良い香りが部屋に充満していった。
「どうぞ」
「ありがとう」
差し出されたティーカップをジョルノは受け取る。
フーゴに一緒に飲もうと、自分の分も入れさせた。ついでに疲れているミスタの分も。
「シーラEに何か言ったんですか?不機嫌でしたよ」
「いや、何も」
その不機嫌なのは、フーゴが原因というか、彼女自身というか。二人の問題なのだが。
彼がこの組織に復帰してから、彼女がそうなったのだ。
フーゴは不思議そうな顔をして、首を傾げていた。
「あいつのクッキー、うめえな」
ミスタがシーラEに貰ったクッキーを紅茶を飲みながら、貪るように食べていた。スタンドたちも、おいしいと食べている。
フーゴも思い出したように、袋から彼女に貰ったものを取り出す。
彼はリボンを解き、中のものを取り出す。
ハート型のクッキー。しかも、片方の面はチョコレート。
「なんだよ、おれだけチョコレートねえぞ」
そう言うミスタは、持っている丸いクッキーをかじる。
「間違ったんじゃあないですかね」
食べますかと、彼にクッキーをあげていた。
こっそりと自分の分の中身を確認するが、ミスタと同じ。
真実を言った方がいいのだろうかと、紅茶を飲む。
彼が特別なのだ。
間違いないように、リボンには小さく名前が書かれているのだし、袋から出すときには、シーラEは、それを確認していたのだから。
面白そうだとジョルノは静観することにした。