こぼれるくらいの愛情を


「承太郎」
ディオは部屋を出ると、廊下にいた弟の名前を呼ぶ。
「なんだ?」
彼は、立ち止まったため、近寄っていく。
「わたしは、お前が嫌いだ」
にこりと笑う。
「……そうか」
眉が動いたが、無表情が変わることはない。少し落胆しつつ、彼を残し、他の兄弟を探すため、歩き始めたが、後ろから何かぶつかる音がし、振り向けば、壁の方に向き、承太郎がうずくまっていた。
「ど、どうした?」
彼に近寄るが、彼は立ち上がり、こちらを見るが、鼻頭が赤い。
「なんでもねえ」
また、歩き出すが、その足がおぼつかない。
いきなり、右に曲がり、扉に顔からぶつかる。音から、痛みが想像できた。
「承太郎!」
彼のそばにかけ寄る。フラフラとする承太郎。
「……大丈夫だ」
そんな彼がとても弱々しく見えて、たえられないと、抱きしめる。
「す、すまない。今日はエイプリルフールで、さっきのは嘘だ。お前のことは、大好きだ!大好きだぞ!!」
軽く、からかうつもりだったのだが、承太郎があんなに動揺するとは、思わなかったのだ。
何も反応はなかったし、嘘なんだろうと、軽く流してくれるにちがいないと思っていたのだ。予想外の反応だった。
「本当か?それは嘘じゃあないんだな?」
彼を見上げれば、いつもの無表情だったが、悲しみの色に染まっている蒼い目が、揺れていた。
「ああ、本当だ!嫌うわけがないじゃあないか」
本当だと、胸に顔を埋め、抱きしめる腕に力を込める。
彼は可愛い弟だ。一番、自分を大切に思ってくれていることも分かっている。嫌うはずがない。
「大好きか?」
「ああ、大好きだ!!」

承太郎は、何度も姉に、大好きだと言われ、頬が緩むのをなんとか、押しとどめていた。
「おれも……」
そこまで言い、彼女の体を抱き返した。嘘だと思われても嫌だ。
しかし、笑えない嘘だ。ディオが自分のことを嫌いなどと。
言われた瞬間、意識が飛ぶような衝撃がきた。まっすぐ歩いていたはずだし、扉を開けて入ろうとしていたはずなのだが、壁にぶつかったり、開けたはずの扉にぶつかったり。
姉の言葉だけで、体が動かせないほど、動揺してしまうとは思わなかったが。
今は、姉に抱きしめられているのだから、もう気にしてはいない。
「本当に君たちは、仲がいいね」
その声に、ディオが自分を離し、顔が動いたのが分かった。
「ああ、当たり前だ」
そこにいたのは、ジョナサン。
ディオが、離せと言うので、抱擁をとく。彼女はジョナサンに近づいていく。
「……なぜ、ジョナサンのふりをしている?ジョセフ」
もう一人の兄の名前を呼ばれ、ジョナサンは目を見開いた。
承太郎も首を傾げた。
「な、何を言っているんだい?ディオ」
見るからに、動揺している。
「なんだ、なんの遊びだ?」
ディオは怪しんで、顔を近づけていく。
その姿を見ていたが、ジョナサンが苦笑いを浮かべているようにしか。
「ほらな、すぐにばれるって言ったぜ?」
笑ってジョセフが現れた。
「どう、似てた?」
声と口調が、ジョナサンになる。
見た目はジョセフだが、そのまとう雰囲気は穏やかなものになった。
「あー、クソッ!なんで、こんなにあっさり見破られるんだよォ!」
口調と声のせいか、ジョナサンが一気にジョセフになった。
悔しそうに頭をかいている。

ディオは呆れてしまった。
「シャツのボタンを開けすぎだ。マヌケ」
そう言って、胸を指でつつく。ジョセフは気づいたようにそこを見る。第二ボタンまで開けられている。
ジョナサンは息苦しいと、一番上のボタンは開けることはあっても、そこまで開けないのだ。身だしなみには気をつかっている。
しかも、顔を近づけたときに、目をそらされた。ジョナサンは戸惑いながらも、まっすぐに見つめ、目をそらすことはない。
「使用人たちは騙せたのにね」
そう言うジョナサンは、ジョセフの服を、彼のように着崩している。黙っていれば、ジョセフに見えるだろう。ご丁寧に髪も跳ねさせている。
「なんで、こんなことをしている?」
「エイプリルフールだから」
「騙せる自信、あったのによ」
話はジョセフから、もちかけられてきたのだと。
幼い頃に何度か、入れ替わったりしていたのを懐かしんで、その話にのったらしい。
「承太郎も一緒にしようって誘いにいったら、昨日はもう寝てて」
「付き合う気はねえぞ」
承太郎は冷めた目で見ていた。末っ子の方が大人びているのは、こんな兄たちの姿を見ているからだろうか。
「そうだよね」
やっぱりと笑うジョナサンの腕をジョセフがひっぱる。
「なあ、他のやつ騙しに行こうぜ!ジョナサン。スピードワゴンとかさ」
彼はとても楽しそうだ。悪戯をしようとする子供のようなわくわくしている表情。
もう、子供とも言い難い年齢の彼がする悪戯は、生優しいものではないだろう。それに巻き込まれるジョナサン、スピードワゴンや彼の友人はどんな被害にあうのか。
「いいけど、大丈夫かな」
どことなく不安そうなジョナサンをジョセフは、ひっぱって連れて行く。
「大丈夫だって、いってくるぜー!」
「いってきまーす」
ジョナサンが手を振っていたので、振り返し、その姿を見送った。
自分を巻き込まない限り、どんな面倒ごとが起こっても知りはしないが。
静かになったな思っていると、いきなり、後ろから腕が体に回ってきて、後ろに引き寄せられ、背に体が触れる。

姉が見上げてくる。承太郎は彼女の耳に口を近づける。
「おれはディオのこと大嫌いだぜ」
その言葉を言うだけで、胸が痛むのを感じた。嘘でも言うものではない。体に回す力を強くする。
「嘘だろう」
分かってると言いたげな顔の姉。触れている腕を彼女が、手が添えられる。
「……当たり前だろ」
自分でも驚くほど、弱々しい声が出た。
「大好きか?」
答えが分かっている問いを、彼女はしてくるあたり、意地悪だと思う。
「ああ……」
頷けば、腕がひきはがされ、ディオは向かい合う。
「言葉にしてくれなければ、分からんなァ?」
意地が悪い笑顔を向けてくる。頬に手が添えられ、その手に自分の手を添える。
「……大好きだ」
小さく言葉にすれば、彼女は嬉しそうだった。
頬から手が離れ、彼女は身を寄せてくる。
愛情を伝えるためにも、その体を抱きしめる。
言葉では、とても足らないのだ。





後書き
承ディオです
速攻で終わるエイプリルフール
シスコンでブラコンですからね
兄弟の入れ替わりネタはいつか、ちゃんと書きたいです


2014/05/01


BacK