間接キス

暑い日が続く中、良いものを買ってきたと使用人が部屋に持ってきてくれたのは、アイスクリームだった。
ガラスの器に入ったそれをお礼を言いながら、受け取る。器はひんやりとしていた。
「お嬢様にはバニラです。坊っちゃんたちには、他の味をお渡ししていますよ」
そう言って、使用人が出ていくと同時に、ジョナサンが入ってきた。
「あ、ディオはバニラなんだね。ぼくはチョコレートなんだ」
その手には、彼が言うようにチョコレートアイスが入った器。
彼は近くにある椅子に座る。
「おい」
次に入ってきたのは、承太郎だった。その手には、自分と同じようにアイスクリームを手にしながら。ソファーに座る自分の横に座ってきた。
「承太郎のは、なんだい?バニラ?」
「林檎」
それぞれと、顔を見合わせる。
言わずとも三人が同じことを考えているのは、分かった。ジョナサンも承太郎もそのつもりで来たのだろう。
「一口づつな」
承太郎とジョナサンが頷く。
そんなやりとりをしている間も、アイスは体温で溶けはじめていた。もったいないと一口、食べる。甘さと冷たさが口に広がり、自然と口角が上がる。
スプーンでアイスをすくい、ジョナサンに差し出す。
「ほら」
「ありがとう」
ジョナサンは笑顔で口を開け、アイスを食べる。口からスプーンを引き抜き、彼のチョコレートアイスをすくい、食べる。やはり、バニラより甘く、冷たくて美味だ。
「ディオ」
承太郎がスプーンを差し出してきたので、それを口を開け食べる。林檎の甘味と酸味がおいしい。
スプーンが引き抜かれ、自分のバニラを取っていく。
「うめえな」
バニラを食べた承太郎は、笑顔を浮かべている。たぶん、無意識だろう。
「ああ」
「どれも、おいしいね」
ジョナサンも幸せそうに笑顔を浮かべている。
いきなり、扉が開き、慌ただしく入ってきたのは、ジョセフだった。
「ただいま!……ん?みんなで、何、食ってんの!?」
彼が帰ってくるなど珍しいと、驚いていたが、興味津々に近づいてきた汗まみれの彼を見て、着替えに戻ってきたのだと分かった。
「おかえり、ジョセフ」
「アイスクリームだ。お前は見計らったように帰ってくるな」
「食べたいなら、取ってこい。まだ、あるらしいぞ」
「マジで!?取ってくるッ!」
彼は踵を返し、部屋を出ていく。アイスをくれという声が聞こえてくる。
相変わらず、元気そうだと、アイスを食べていたが、なくなってしまった。
「おかわり、いるかい?」
食べ終えたジョナサンが聞いてきたので、頷く。もう一つくらいなら、食べられるだろう。
「取ってきてやる」
手を差し出してきた承太郎に、器を渡す。
「じゃあ、頼んだ。フレーバーは任せる」
彼らが部屋を出ていくのを見送り、アイスを待っていると、帰ってきたのはアイスを食べているジョセフだった。
自分の前に器が置かれる。三種類のアイスが入っていた。
「着替えてくる!!食べるんじゃあねーぞ」
そう言いながら、彼は部屋を出ていく。
食べられるのが嫌なら、持っていけばいいのにと、スプーンですくい、一口食べる。
扉が開き、今度は二人が戻ってきた。
「貰ってきたよ……って、それ、ジョセフのだよね?」
「わたしの目の前に置いていく、あいつが悪い」
承太郎が差し出してきたガラス皿には、チョコレートのアイス。
スプーンをジョセフの皿に戻し、それを受け取ると、シャツのボタンもとめていないまま、ジョセフが戻ってきた。
自分の減っているアイスを見て、こちらを睨みつけてきた。
「てめー、食うなっつったろうが!」
自分のアイスを食べ、そっぽを向く。
「そこに置いているのが悪い」
アイスをすくい、自分の口に持っていこうとすると、手が掴まれ、スプーンが反対側に向き、アイスはジョセフに食べられてしまった。
「ふっふーん」
してやったと彼は笑うが、一口くらいで、どうこう言うことはない。
しかし、彼はスプーンと自分を交互に見始め、いきなり、横を向き、何かを考え始めていた。
どうしたんだと見ていると、頬が段々と赤くなっているのが分かる。
「どうした?暑いのか」
スプーンを皿に置き、彼に手を伸ばそうとすると、暑くないと皿にあるアイスを半分、ひったくると足早に部屋を出ていってしまった。
「あいつ……」
少なくなったアイスを見ていると、承太郎が自分のアイスをスプーンですくい、差し出してくれた。
それを食べると、ジョナサンが承太郎に同じようにアイスを差し出していた。
承太郎がそれを食べると、彼は自分にもアイスを差し出した。
おかわりなんて、必要なかったのかもしれないと思いつつ、それを食べた。

ジョセフはアイスを一人で食べながら、今さっきしたことの言い訳を頭で浮かべていた。
ディオが自分のアイスを食べたから、返してもらおうと食べただけで、関節キスをしたかった訳では。あれは、事故だ。
自分のスプーンで取ればよかったのだと思いながら、アイスを口に運ぶ。

そのスプーンも彼女が使ったのだと、知らずに。





後書き
ディオとの関節キスですが
ジョナサン→気にしてない
承太郎→分かってる
ジョセフ→凄い気にする
です
ディオは気にしてません
アイスクリームがあるか、微妙な年代だったりします
ギリギリあるかな
これくらいの時は、まだ貴族の食べ物ですね


2014/07/22


BacK