星を取りあう

周りは暗闇。
暗闇は慣れている。太陽を見れなくなったあの日から、ずっと闇に身を隠していたのだから。
気づくと一人でこの場所にいる。
長い間、眠っているという現実から逃げ出すだけの場所。不思議な空間だ。
「ディオ」
遠くにいるその人物は、確かに自分の名を呼んだ。
「気安く名前を呼んでくれるじゃあないか」
あの時と同じ姿で、立っていた。こちらを見る目に、幼いあの日を思い出す。
「エリナ……いや、ジョースター夫人」
美しい彼女は、自分の兄弟であり友のジョナサンの妻だ。
夫婦として過ごした日は浅い。新婚旅行初日に、自分は夫を殺し、その体を奪ったのだ。
「お久しぶりね」
自分の感覚的には、そんなに時間は経っていない。人間ではない自分には、時間など関係ないのだが、彼女は長い時間を過ごしたのだろう。
いきなり、彼女の姿がぼやけ、老婆が見えたが、また元の彼女に戻った。
「……寿命か」
人には、寿命がある。
魂だけが、ここに来たのだろう。この曖昧な空間に。自分もこの空間はよく分かっていないのだ。
「ディオ……わたしの夫、ジョナサンを返して」
反抗的な目は、大人になっても変わらない。
また、口づけをして黙らせてやろうかと、一歩、踏み出したが、彼女との間に川が流れていた。
自分と彼女を隔てているものか。
それとも、エリナが自分を拒む心の現れか。
「あいつは死んだ。そちらにいるだろう」
彼は彼女がいる世界にいるはずだ。自分が殺したのだから。
それとも、この体のことを言っているのだろうか。それは、できない相談だが。
「ジョナサンを返して」
繰り返された言葉にため息をつく。
「おれは知らん」
話にならないと、そこに座りこむ。探せば、首ぐらいなら、どこかに転がっているだろう。
彼女はこちらを指す。
「……あなたが握っている手は見えていないの?」
指し示したそちらを見れば、自分は誰かの手を握っており、その人物を見れば。
目を閉じ、倒れているジョナサン。
「――!」
手を離したが、今度は腕から出てきた茨が彼との腕を縛る。
「なっ……」
こんな能力、吸血鬼の自分にはない。
自分と繋ぐ茨の数が、段々と増えていく。離さないと言わんばかりに。
「あなたがジョナサンの魂を縛っているのに」
淡々とした声に違うと言いたがったが、言葉は出てこない。
違うと訴えるためにも、振り返ると、エリナの姿はなかった。
いきなり、腕が引っ張られ、見れば、ジョナサンが目を開いて、こちらを見ていた。
言葉にできない、いや、してはいけない感情が沸き上がってくる。
彼の唇が自分の名を紡ぐ。
ジョナサンにもう片方の手を伸ばすと、睡魔に似た感覚が自分を襲い、目蓋が閉じていく。
「そうだ……お前は……このディオの……」
体も魂さえも。彼の全ては、自分の――。

ジョナサンの横にディオの体が倒れた。
腕は茨で繋がっている。これは何だろう。新たな彼の能力だろうか。
「ぼくはいつになったら、君から解放されるんだろうね」
また目を閉じる。

今度、目を開いたときはこんな暗闇ではなくて、光を見たい。
遠い昔に見上げた小さく光る星でもいい。
自分たちを導いてくれる光を。





後書き
エリナの出番少ない……
無自覚でジョナサンを縛るディオさん
私のところのディオはジョナサンへの気持ちを自覚していません


2014/03/18


BacK