食べさせて

ラグビーの試合で利き手を捻ってしまったジョナサン・ジョースターは手首を固定されて屋敷に戻った。心配する使用人たちや父には大丈夫だと伝えた。
診てくれた医師は数週間で治ると言っていたが、それまではこの状態だ。
使用人にも苦労をかけることを伝える。義兄弟であるディオ・ブランドーには頭を下げ、お願いすれば、気にするな、兄弟じゃあないかと笑顔が返ってきた。
「坊ちゃま、お食事です」
わざわざ、夕食を部屋にを運んでくれた使用人にお礼を言うが、なぜかそれは二人分あった。不思議に思い、聞いてみる。
「ディオ坊ちゃまも、こちらでお召し上がりになると」
なぜと首を傾げていると、ドアがノックされ、話の中心人物がやってきた。
「ここで食べるのかい?」
「一人で食べても、味気ないじゃあないか」
今日は父はいない。父は家を留守にすることが多く、食堂では自分とディオと二人っきりで食べていることがほとんどだ。
あんな広いところで一人で食べるのも寂しいかと、テーブルに置かれた食事の前に座る。自分の向かいに彼の分の食事も置かれ、ディオも座る。
使用人には頭を下げ、部屋を出ていく。
固定された手でフォークを持ちサラダに突き刺して、口に持っていくが、うまくいかずに、皿にボロボロと落ちていく。食べることに悪戦苦闘していると、逆の手で持つといいと呆れたように前にいる彼が行ってきた。
「そうだね」
逆の手にフォークを渡すが、どうやって持つかよく分からない。とりあえず、掴み、皿に落ちたものに突き刺し、それを口に運ぶ。
「食べにくい……」
口の中のものを噛み砕き、喉に通して一言。利き手ではない方でフォークすらまともに掴めないとは。
目の前にあるステーキはすでに切り分けられていた。怪我でナイフを扱えないと判断したのだろう。有り難いことだ。それにフォークを突き刺し、口に運ぶ。
「あっ」
食べる前に落ちていき、テーブルの上を転がる。
「やっぱりな」
ディオを見ると、彼は持っていたフォークとナイフを置き、ナプキンを取り、背もたれにかけると、こちらにやってきた。
隣に座り、自分の手からフォークを抜き取ると、肉に突き刺し、自分の口の前まで持ってくる。
「食べさせてあげるよ」
にっこりと笑う彼。大丈夫だと言おうとしたが、テーブルに転がった肉を見て、大人しく口を開けた。肉が口の中に入り、口を閉じれば、フォークが引き抜かれる。
「あ、ソースが」
彼の手が伸びてきて、口の横についていたのだろうソースを指で拭き取ると、指を舐める。
「次は何を食べるんだい?」
口の中のものを飲み込み、同じものをと言うと彼は、肉を取り、口の前まで持ってきてくれた。それを食べる。
「次は?」
サラダを指すと彼は、皿をこちらに寄せ、野菜をフォークに突き刺し、また口の前まで持ってきた。
「ディオ、君が食べれないじゃあないか。ありがたいけど、もう」
このままでは彼が食べられない。もういいと言おうとしたが、言葉の途中で口の中にフォークを突っ込まれた。
「じゃあ、早く食べてくれ。目の前で食べ物をポロポロ落とされるのも見苦しいんだ。パンは食べられるな?」
笑顔がなくなり、うんざりしたような顔になる。いつもの仮面がはがれていた。彼がフォークを口の中から引き抜く。頷くと、パンを食べていろと立ち上がる。
彼は自分の分の食事を横に、持ってくると隣に座る。ナプキンをした彼は、フォークとナイフを手にした。
「食べたくなったら、言え」
そっけなく言った彼は自分の横で食事を再開した。自分は彼の言うとおりにパンを一つ取り、それをちぎって口に放り込んでいたが、やはりすぐに食べたくなってくる。
「ディオ、ステーキ食べたいんだけど……」
彼は食べるのを中断し、面倒なのか、自分のフォークをそのままステーキに突き刺すと口の前まで持ってくる。
このまま食べていいのだろうかと迷っていると、早くしろと不機嫌に言われ、それを食べる。
彼は自分の皿から肉を一つ取ると、そのまま食べてしまう。
「ぼくの……!」
「食べさせてやってるんだ。これくらい、いいじゃあないか」
彼は顔をそらし、フォークを置くとパンを手に取り、食べていく。
そんな彼を見ながら、一人で食べるためにも、早く怪我を治すことに専念しようと決心するのだった。





後書き
人の世話をするのは好きそうですよね、ディオ
なんだかんだでお父さんの世話もしてましたしね


2015/02/14


BacK