それは悪い予感
ジョナサン・ジョースターはディオ・ブランドーと共に帰路についていた。
今朝、学校まで送ってくれた馬車はない。着いたと同時に車輪が外れ、直しているからだ。
男二人、しかも体格がいいジョナサンとディオはそれなりに重さがある。馬車も悲鳴をあげていたのだろう。
移動している最中に車輪が外れなかったのが不幸中の幸いだ。
明日には代わりの馬車を用意できると言われ、今日は徒歩で帰ることになった。徒歩で帰ることは珍しくない。友人たちと帰りに道草をすることは多々ある。
ジョナサンは曇ってきた空を見上げる。
「段々と寒くなってきたね」
「ああ」
並んで歩くディオは相槌を返してくる。
「そろそろ、マフラーが必要かな」
「雪が降ってからでいいんじゃあないか」
そんな他愛のない話をしながら、歩いていく。馬車で会話しているときと何も変わらない。
あることを思い出し、ジョナサンは歩みを止めた。
「あ、ディオ。カフェに寄っていこうよ。前に行った、スコーンがおいしかったところ」
そばにある横道に入り、少し歩いたところにそのお店はある。久しく行っておらず、スコーンの味を思い出し、食べたくなった。
ディオは行こうかと横道に入る。
自分もそちらに足を向けたが、靴に違和感を覚え、足を止めた。見ると靴紐がとけていた。
「待ってくれ、ディオ。靴紐が……」
彼は立ち止まり、こちらに向く。
「ちゃんと結んでないからだ」
しゃがみ、靴紐を見たが、どうやら、とけたのではなく、切れたらしい。
靴紐が切れるなんて珍しいが、長年、はいていた靴だ。紐がほつれていたのかもしれない。
「どうした? 結べないのか?」
「靴紐が切れて――」
顔を上げると自分を見下ろす彼。
その背後に人がいた。振り上げている手には刃。その切っ先はディオに向かっていた。
「ディオ!」
彼を自分の方へと引っ張り、立ち上がる。刃は空を切ったが、まだディオを狙っているようで、彼の体に刺さろうとしていく。
「ぐっ……」
かばおうと、とっさに出た手を貫かれたが、そのままナイフを奪った。
武器がなくなり、通り魔は逃げようとしたが、ディオに体当たりをされ、道に伏せることになっていた。
「おい! 大丈夫か、ジョジョ!」
刺した男を取り押さえながら、彼はこちらに言葉を投げかけてくる。
「だ……い、じょう……」
貫かれた場所からの痛みに顔を歪ませる。血が肌を伝う感触が気持ち悪い。
「おいッ! 誰か来てくれッ!!」
その声に応えるように人がやってきた。ディオは指示を飛ばしていたが、自分はそこに膝をついていた。視界がぼやける。
「ジョジョ!」
名前を呼ばれ、頭を上げるとディオの顔があった。彼はネクタイをとき、腕にきつく巻きつけてくる。
「しっかりしろ、立て」
「う、ん」
彼は自分に肩を貸し、立ち上がらせてくれた。話しかけてきた男性に病院に連れていくと言うと、彼は歩き出した。
彼は自分が気を失わないように、声をかけ続けてくる。繰り返される名前を呼ぶ声に少し心地いいとも思うのだった。