臆病者
夜遅くに扉がノックされ、誰だと不機嫌になりながら、ディオが扉を開くと、そこには青い顔をしたジョナサンがいた。
「こんな時間に何か用か?」
時間を考えろと睨みつけていると、ジョナサンは口を開いた。
「あ、のさ……今日、一緒に寝てほしいんだ……」
「はあ?」
意味が分からない申し出に、ますます不機嫌になる。なぜ、一緒に寝なければいけないのだ。
「怖い話を見てたんだけど……眠れなくなって……」
理由に呆れてしまう。寝る前にそんなものを見る方が悪い。付き合っていられないと、扉を閉めようとすると、服の裾が掴まれた。
「お願いだよ、ディオ! お願いだからッ……!」
掴む力が強いのか、本当に怖いのか、腕が震えていた。
その時、後ろから音が聞こえ振り向く。ジョナサンは小さく悲鳴をあげた。窓が開き、カーテンが音をたてて、たなびいていた。
「お、おねがい、します……」
彼の方に向き直れば、今にも泣きそうな顔で、懇願するような目でこちらを見ており、離されない裾を見て、このままでは眠れないことを悟る。
「入れよ。あと、そんなに掴まれちゃあ、服がのびる」
「ご、めん……」
そう謝るが、彼は離す様子はない。部屋に入れてもらえないことを警戒してだろうか。
部屋に入れ、扉を閉めると、ジョナサンはようやく、裾を離した。
「ありがとう、ディオ」
お礼を無視し、開いた窓を閉めるために、そちらに向かおうとすれば、あとから彼がついてくるのが分かった。
「なんで、ついてくるんだ」
「君がおばけに連れていかれるかもしれないじゃあないか」
そんなことがあるわけがない。
呆れつつ、窓を閉める。突然、開いたのは、鍵がちゃんとかかっていなかったのだろう。
鍵をしっかりかけたのを確かめ、ベッドに向かう。
ダブルベッドは二人で寝ても、充分の広さがあったが、彼と寝るのは嫌で、ソファーで寝ろと言ったら、嫌だと首を横に振り、また服の裾を掴んできたので、折れることになった。
ランプを消そうとすると、ジョナサンが止めてきた。
どうやら、暗闇が怖いらしい。
「目を閉じれば、同じじゃあないか」
「そうだけど……君がいなくなったら」
ため息をつく。いい加減、自分も眠く、さっさと寝たかった。
灯りを消すと、ジョナサンが名前を呼び、自分の腕を掴んできた。
その掴んできた手を握ると、彼の動きが止まる。
「手を繋いでてやるから、寝ろ」
「……分かった」
すぐ近くでジョナサンが横になったのが分かり、自分もベッドに横になった。
「おやすみ、ディオ」
「ああ、おやすみ」
手は、強く強く握られていた。
そんなに強く握らなくても、自分が彼の前からいなくなりはしない。
全てを奪い取るまでは。
暗闇の中、目を閉じた。