言葉は伝わらないから
座っているジョナサンの腕の中には、布に包まれた小さな温もり。
怪我をしていた子猫だ。
手当てをしたが、回復力はもうないらしく、今、息を引き取ろうとしていた。
「まだ、抱いているのか」
そばにはディオが立っていた。
「うん。まだ生きてるから」
猫をなでる。柔らかい毛の感触が手のひらから伝わる。
「もう死ぬぞ」
「分かってる」
拾った時には、もう鳴く力もないようだった。
それでも、見捨てられなくて、かすかな望みにかけて、手当てをしたが、何も食べられなかったし飲まなかった。
「それでも……」
まだこの命はここにいる。
この猫の親はどこにいるのだろうか。はぐれてしまったのだろうか。見つけた時は、一匹だった。
孤独で死んでいくのは寂しいだろう。
「好きにしろ」
「うん、好きにするよ」
この命が尽きてしまうまで、付き合うつもりだ。
ディオは呆れたようなため息をついたが、自分の横に座った。
「一緒にいてくれるのかい?」
返答はなかった。
「よかったね」
二人なら、なおさら寂しくないと、子猫をなでる。
時計が時を刻む。
ただその音を聞いていた。
「ミャー」
突然の鳴き声に、自分もディオも驚いていた。
それは、まぎれもなく腕に抱いている猫から発せられた。
そんなこともできないほど、弱っていたはずなのに。
見ると、子猫は何も変わってはいない。
触れて分かった。
「……あ」
温かさはあるが、もう息もしていないし、小さな鼓動も感じない。
「最期のお別れだったのかな」
この子が最期に伝えたかったことは分からなかった。
あの鳴き声は、何を意味していたのだろう。
別れだろうか。
恨みだろうか。
感謝だろうか。
生きたいという願いだろうか。
「猫ではないから分からんな」
ディオは立ち上がり、自分の前を通り、部屋を出ていった。
「助けられなくて、ごめんね」
猫をなでる。
さようなら、そう言っても分からないだろうから。
庭に墓を作ってやろうと、庭の片隅に穴を掘っていた。
黙々と子猫が入る大きさと深さまで掘る。
「これくらいかな」
小さな穴。子猫は小さかった。これくらいだろうと、スコップを置き、子猫を穴の中に入れる。
土を被せていく。段々と布に包まれたその存在は見えなくなっていく。
穴をふさぐと、少しだけ盛り上がっていた。
立ち上がり、スコップを片付け、庭にある花を摘み、小さな墓に添えた。
「気は済んだか?」
後ろにディオが来たのだと分かった。
「うん」
じわりと視界が滲む。
もうあの猫はいないのだと、死んだのだという実感が、今になってやってきた。
花に滴が落ちる。
「ジョジョ」
「なんだい?」
あまり泣いているところを見られたくはなくて、うつむいたまま答える。
ディオは自分の手に何か掴ませると、遠ざかっていった。
見れば、それはハンカチだった。
自分の物もあるが、彼の好意を無下にすることもないと、それで涙を拭った。
かすかにあたたかいそれは、子猫を思い出させ、また涙が流れた。