君とぼくの選択肢
目を開けると目の前にはディオ・ブランドーが立っていた。
タキシードを着ている彼だが、それを見ている視界が白い。レースのようなものをかぶっているらしいとジョナサンは思いつつ、視線を自分の体に向けた。
「……?」
自分はなぜか真っ白のドレス着ており、上から垂れているのはベールだ。
「……!?」
うろたえて手に持っていたブーケを落とす。自分の姿と持っているものは、まるで花嫁だ。
「おいおい」
ディオは足元に落ちたそれを拾い、しっかり持てと両手で握らせてくる。
「緊張しているのか」
彼は笑い、自分の腕を持たされると、歩き出す。自分もそれについていく。
教会の神父が待つ、祭壇まで歩いていくが、椅子に座り自分たちを見るものたちから、視線を浴びた。
その顔触れは懐かしいと思える人たちや、よく見知った顔があった。
その顔触れには、自分の父のジョージや執事や使用人、妻のエリナや何かと世話を焼いてくれたスピードワゴン、波紋の師匠のツェペリまでもが、ディオと自分を笑顔で見つめている。
ディオの仲間たちもいた。テレンス兄弟やヴァニラ・アイス、エンヤ婆たち――彼らも同じように祝福をしている。
皆が何も疑問を持たず、男同士の結婚を祝福していた。その雰囲気が怖くなり、自分はディオの腕を離し、ブーケを投げ捨て、ベールを取り払い、今来た道を走った。
奇妙なここから、今すぐに逃げ出したかった。
「ジョジョ!」
ディオの声も無視し、大きな扉を開けると。
「――!?」
そこは荒れ果てた大地だった。緑もなく、干からびた緑もない地が地平線まで続いている。地平線の上にある空が赤い。
「どこに行こうとしたんだ?」
振り返るとディオが立っていた。席に座っていたものたちも騒然としてこちらを見ていた。中にある教会の普通の景色が外の世界とはかけ離れていて不気味にうつる。
「どこへにも行けないぞ」
ディオの腕が伸びてくる。後ろにさがろうとしたが、できなかった。背に何かがあたり、振り返ろうとしたが、背を押され、前に倒れていく。
自分はディオに抱きとめられ、離れようとしたが、顔を上げたときに口を口で塞がれた。
周りから拍手や祝いの言葉が聞こえてくる。
やめてくれと彼を突き離す。
「おまえの世界はここだけだ」
彼は笑っていた。彼の後ろにはエリナが立っていて、自分たちを微笑ましく見ていた。
「エリ……」
「あなたはディオを選んだじゃあない」
彼女は微笑みながら言う。
「わたしよりもディオを」
「違う、違うんだ!」
これは自分の意思ではない。自分は彼女だけを愛して――。
「あのときに……一緒に死ぬと言った妻の言葉を無下にしたのは、誰だ?」
間近で声が聞こえた。自分はディオの首を抱えていた。最期のときのように。
もう自分は花嫁姿ではなかったし、タキシード姿の彼はどこにもいなかった。しかも、あんなに騒いでいた人々もいなくなり、周りは静かだ。
「あいつはおまえと一緒に生き、死にたかったんだぞ」
エリナは悲しそうな顔をしていた。
「ジョナサン」
彼女には生きていてほしくて、傷ついた自分には救うにはあの方法しかなかった。ディオと共に死にたかったわけではない。
「……」
声が出ない。声を出そうとすれば、息だけが出ていく。
「おまえはこのディオを選んだ」
首だけのディオが笑う。
エリナは目を閉じ、涙を流し、自分の横を走り去っていく。
腕は伸ばせなかった。もう自分の頭は胴体から切り離され、上下で反転した視界で彼女が教会の外へ出ていく姿を見ていた。
ジョナサンは目を開けて、夢であることに安心したが、夢の中のエリナを思い出し、罪悪感に囚われた。
自分のエゴで彼女には寂しい思いをさせただろう。
今や直接、謝ることもでない。自分は彼に捕まってしまったから。
ここからは逃げ出せない。体に回る彼の腕がそう言っているのだ。