可愛いは作れる?
「お前んちでやらしてくれたっていいじゃん!」
「ぜってー、ヤダね!協力するだけ感謝しろ、スカタンッ!」
二人は荷物を抱え、家の中へと入る。
「誰もいねえけど、おれの部屋ですっかあ」
靴を脱ぎ、二人はジョセフの部屋へと向かった。
「ただいまー」
何も返事がない。玄関には、ジョセフともう一人の友達の靴。帰ってきているはず。
リビングに向かうと、いるはずの二人がいない。部屋にこもっているのだろうか。
確かめようと、二階へと上がっていく。
部屋に近づくにつれ、声が大きくなる。
「シーザーちゃん、キツイ!無理!無理だって!」
「我慢しろ!」
「ま、マジで、くるし……!」
「お前がもうちょっと締めろって……」
「ちょ……死ぬッ……!」
扉の向こうから聞こえてくる会話が理解できない。二人で何かしているみたいだが。
良からぬことをしているのではないかと、不安になり、勢いよく扉を開ける。
「二人ともッ!な、何しているんだい……!?」
何が起きていても、受け止めよいと覚悟していた。
多感な年頃だ。そういうことにも興味があるのは普通のことで。
「あ……」
部屋の中にいたのは、女性の服装に身を包んだジョセフと、ベルトをしめているシーザー。
「え、あー、お邪魔してます」
「あ、うん。いらっしゃい、シーザー」
いや、普通に受け答えしている場合ではない。
自分の考えていた良からぬことは起きてはいなかったが、理解しがたい光景。
「何をしているんだい……?」
首を傾げ、扉を開けたときと同じ言葉を繰り返すしかなかった。
ディオが家の中に入ると、何やらリビングが騒がしい。
また、ジョセフがシーザーとかいうやつを連れてきているのだろうか。
ジョナサンはシーザーが来ると、彼にかまうことが多い。自分との時間が減ってしまう。
ため息をつき、扉を開ける。
「かえっ……」
リビングに入ると、奇妙な光景に固まってしまった。
「なっ!可愛いだろ!自信あるんだぜ!」
「可愛い……うん……」
「いや、ジョナサンさん!可愛くないって、はっきり言ってやるべきです!」
「シーザー基準なんて知らないねッ!お、いいとこに帰ってきたじゃねえか、ディオ」
巨体に女物の服を身にまとい、厚化粧のジョセフが大股で迫ってくる。
こういう時にどういう反応すればいいのかと、頭は答えが出ずに混乱しているようだった。
「どう?可愛いだろ?」
身をくねらせて聞いてくるのは、なかなか破壊力がある。
どうやら、ジョセフは自分で似合っていると思っているらしい。自分たちと変わらない体格と長身で、呆れるくらいの自信をこちらを見る目にたたえている。それに敬意を払うべきか。
「醜い面をどけろ」
顔を正面から掴み、こめかみのところに力を込める。
「まっ……いてえっ……!やめろ、この馬鹿野郎ッ!」
腕を叩いてくるが、ただ力を強めた。
「……当然の反応だな」
「ディオ!や、やめるんだ!」
ジョナサンが力ずくで、自分とジョセフを引き離す。
「いってぇ〜!」
痛みにうずくまったが、すぐに睨みつけてくる。へたくそな化粧のせいで迫力はない。笑えばいいのだろうか。
「何をしている」
「文化祭の出し物で、女装するんだって」
ジョセフを心配しつつ、ジョナサンが答える。
「その恰好となんの関係がある?」
「……文化祭で喫茶店やんだけど、普通じゃつまんねーってことで、男が女装してウェイターするんだよ。女子は準備とか料理専門」
ジョナサンは痛みがひくようにとジョセフのこめかみをなでていたが、その手が止まる。
「ん?とういうことは、シーザーも?」
同じクラスだったと彼を見ると、ばつが悪そうな顔。
「……一応」
「シーザーちゃんは、チャイナドレスなんだろ」
「ばっ……!」
余計なことをとシーザーは、ジョセフを殴る。
想像する前に頭に浮かんでくる前に頭を振った。
「すごそうだね……」
シーザーも体格がいいため、似合うとは言いがたい。
「研究して一番、可愛くなってやろうと思ったのに」
「無理があるだろ……」
努力することはいいことだと思う。そのために、クラスメイトに化粧品やらを買いに行ってもらったらしい。
「この服、スージーQのお手製なんだぜ!」
彼の服を作った彼女は、シーザーの服を作っている真っ最中らしい。
「おい、ジョナサン」
襟首を掴まれ、引き寄せられ、むせる。もっと違う引き寄せ方があるだろう。
「食事はどうした」
「あ……」
ディオに言われ気づいたが、ジョセフの女装に付き合っていたため、夕食の準備などしていない。
「ごめん……できてない」
「貴様は帰ってきて、こいつらと遊んでいただけか」
「今から、簡単なものなら……」
台所へと向かおうとするが、襟首は離されない。
「いや、わたしが作る。貴様はのろっちいからな」
襟首が離され、ディオが台所へと向かう。
その言葉に驚いたのは二人もだった。
「ディオ、料理できんの!?」
「ぼくに料理を教えてくれたのはディオだよ」
「え!?」
ジョセフが来てからは、ディオは自分自身のために料理することはあったが、人に振る舞うことはなかった。
家事全般は自分がしているが、ディオは家事全般できる。今はしないが。
「貴様らはさっさと片付けろ」
「へいへい。シーザー、脱がして」
「……はあ」
シーザーは、ジョセフの服を脱がすのを手伝っていた。
ディオに手伝うと言うと、断られてしまった。
出てきたのは、オムライスだった。
「ジョナサンとお前だけ、ふわとろじゃねーかッ……!なんで、おれたちはしっかり焼いたやつなんだよ!」
見事に差別化されていたが、どちらも丁寧に作られている。
それを気にせず、シーザーは手を合わせ、食べ始めていた。
「文句があるなら食うな」
「交換するかい?」
ジョセフにそうジョナサンは申し出ると、彼は顔を輝かせた。
「それは、このディオが許さんぞ」
二人が交換しようとすれば、ディオに止められる。
「ぼくはどっちでもいいし」
「シーザーもずるいって思うだろ!?」
「うまいし、おれは別に」
「シーザーちゃんの裏切り者!」
「半分、交換しよう。ね、ジョセフ」
「それは許さんと言っている」
「別にいいじゃあないか。ほら、ジョセフ、一口」
皿の交換はディオの手が邪魔しているため、オムライスをスプーンですくうと、ジョナサンはジョセフへと差し出す。
それは、方向転換され、ディオの口へと運ばれていってしまった。
「なんで、君が食べるんだい!」
「なんだよ!一口くらいいいじゃねえか!」
なんとなく、ディオの思惑が分かったシーザーは、口に出ないよう、オムライスを口に詰め込んでいた。