二人の愛の証
「ほら、やるよ。ジョジョ」
椅子に座るジョナサンの手を掴み、ディオは指に指輪をはめる。そこは、かつて結婚指輪をしていたところ。
ジョナサンはディオの気まぐれに反応はしない。ただ無表情で彼を見るだけだ。反応すればディオは面白がるだけ。言葉の意味でさえ、彼の理解する頃には捩り曲がってしまうため、必要最低限の言葉しか交わさなくなった。
「わたしと揃いの結婚指輪だ」
彼は手を見せてくる。自分と同じ場所に指輪がある。宝石が埋め込まれた、シンプルなもの。
ディオの体は元は自分の体だ。していたはずの結婚指輪はどこにいったのだろう。愛しい妻と交換をした愛の証を。彼の事だ。海にでも投げ捨てたか。
「わたしたちには誓いの言葉なんぞいらんだろう?」
持っていた手に彼は顔を近づけ、指輪をしている指に歯を立てる。牙が皮膚を破き、肉に食い込み、血が溢れ、指輪を濡らす。
牙を引き抜かれば、指の傷が治っていく。彼は指や指輪についている血を舌で拭っていった。
「おまえは一生、このDIOと共にあるのだからな……死んでもなお……」
彼は自分を放してはくれなかった。体を奪われ、死ぬことさえ奪われている。歪に体に留められた魂さえもいつかは奪われるのだろうけれど。
「目に見えないものを人は目にしたいがために、形にしようとする……この指輪みたいにな。おまえは言葉にしようとも、聞き入れてくれないからな」
ディオの言葉は全て上辺だけだ。愛している、好きだ――自分をほだすためだけの言葉。それ以上の意味なんてない。
この指輪でさえ、愛情の具現化ではなく、彼の所有物という証。彼から逃げられないということを示すものだろう。小さな拘束具を見て、自覚しろということだ。
指にしていれば嫌でも目に入る。彼がいないところでは外していればいい。
「ああ、そうだ。ここにしていた指輪だが……」
彼は自身の指輪を指す。
「この指輪の一部にしてもらったぞ」
予想外の言葉に目を見開く。
「さぞかし、エリナも喜んでいるだろうな」
出された名前にかぶっていた仮面がボロボロとはがれていく。
彼女も遠い未来で自分の愛の証が、夫を奪った者と夫とを繋ぐ鎖になるとは思いもしなかっただろう。
「そんな、顔をするなよ……わざわざ、作ってやったんだ。嬉しいだろう? 笑えよ」
全く笑えない。そもそも、笑顔はどうするものだったか。起きてから笑顔なんて一度も浮かべていない。
笑ってはいないが、彼は満足そうな表情をしている。彼が望む表情をしているのだろう。
ディオの顔が迫り、目を閉じると唇が重ねられた。
「捨てるなよ、ジョジョ……伴侶からの贈り物は大切にしろ」
顔を離し、食事をしてくると彼は部屋を出ていく。
彼は彼女の愛情でさえ利用して、自分を追い詰めていく。逃げ場など、どこにもない。
「……すまない、エリナ……」
一人になった部屋で呟いた言葉は静寂に消えていき、目からは涙がこぼれていった。