永遠の飢え
「ジョジョ、来い」
ディオに呼ばれ、ジョナサンは見ていて本を閉じ、ベッドに寝転ぶ彼に近づいていく。
自分を見るディオは、少し不服そうで、自分の腕を引っ張り、ベッドに押し倒すと、覆い被さってくる。
着ているシャツのボタンが外され、首に顔を埋められる。
近い頭をいとおしげに撫でた。
DIOは首に噛み付く。
ジョナサンは今は、ただの言いなりの人形だ。
それが、自分が大人しくしている条件だ。
彼は、スタンドのせいで倒れた子孫を救うために、様々なことを調べ、友人であるプッチに協力を仰ぎ、彼を連れ、日本にまで飛び、子孫を守るために、彼らに手を出させないために、彼自身が犠牲になった。
ジョースターたちはそれを良しとはしなかったが、ジョナサン自身が説き伏せたのだ。
「どうか、幸せに生きて」
そう涙した彼に反論する者はいなかった。
どちらも手を出さない。ジョースターたちも、自分たちも。
自分は、昔に自分を負かせたジョナサンを好きにできれば、どうでも良かった。
そのためだけに、彼を生き返らせたのだから。
ジョナサンは目を覚まし、眠ってしまったのだと、起き上がれば。
「離れるな」
その言葉と共に、腹に手が回ってきた。
彼の言葉に従い、そこからは動かない。
まだ体は性交のあとを生々しく残しているため、少々の不快感はあるが。
彼の方を見れば、怒っているような表情。
怒らないでと、微笑み、唇を重ねる。
「……つまらん」
ディオは起き上がると、また押し倒してきた。
蒼い目が、ただ自分を見上げている。
「ぼくの体に女性のようなものを求めないでよ」
ジョナサンは自分が言った、つまらないという言葉の意味を彼は勘違いしているようだ。
「違う」
「飽きてきたのかい?なら……」
「違う……違う!」
首を振って、否定する。
彼を凌辱し、言いなりにさせて、優越感に浸ってはいたが、今はそれもなくなっている。
どうしようもない虚無感が自分を襲っていた。
「ジョジョ、お前がわたしのものになるのなら、お前以外のジョースター家の者には手を出さん。部下にも約束させよう」
ディオが出してきた条件にジョナサンは、首を縦に振った。
自分が犠牲になるだけで、子孫たちが、自分が守ったものが続いていくなら、小さな犠牲だった。
「相変わらず、君は優しいなァ、ジョジョ」
懐かしい口調で言う彼は、嬉しそうに笑っていた。
百年経っても、彼は変わっていない。変わったのは、見た目と新しいスタンドという能力だけだ。
そんな表情も、今は見る形もない。
なぜ、そんな苦しそうで悲しそうな顔をしているのだろう。遠い昔、殴って彼を泣かした時みたいだ。
彼は、自分をいたぶって愉快そうだったのに。
好きだと愛していると、上辺だけの言葉を言って、抱きしめ、口づけ、交わって、時々、噛みつかれ、首を絞め、殴って。
それだけでは、足りないと言いたげな彼の頬に手を添える。
「ぼくは、君だけを愛しているよ――ディオ」
そう言えと、彼が言ったのだ。
このディオだけを愛せと、言ったのではないか。
することなすことを、自分はただ受け止めているだけなのに。
「……腹が減った」
DIOは、そう呟き、ジョナサンの上から退き、血を持ってこさせるために、部下を呼ぶ。
「何か御用でしょうか、DIO様」
部屋にやってきたのは、テレンス・ダービー。
この屋敷で執事をしている者だ。
自分たちの姿を見ても、眉一つ動かさない。もう慣れているのだろう。ジョナサンは、シーツを下半身にはかけてはいるが。
「血を持ってこい」
「かしこまりました。すぐにご準備をいたします……少々、お待ちくださいませ」
彼は、うやうやしく礼をすると、部屋を出ていく。
グラスに入った血が用意され、飲ませろとジョナサンに渡す。
彼は中身を煽り、グラスを置くと、自分の顔に両手を添える。
唇を重ね、流れてくる血を飲む。
彼の血を飲んでいるような錯覚を起こす。彼の血の味など知らないが。指から吸血していたのだから。
この血はスピードワゴン財団から提供されているものだ。人を殺すことをないよう、ゾンビを増やすことがないようにと。
餌は勝手にやってくるのだ。自ら望んで。吸血鬼と知ってもなお。
しかし、目覚めてから、スピードワゴンの名前を聞くことになるとは思わなかった。忌々しい。初対面でいきなり、ゲロ以下の臭いがなどと言って、燭台を蹴った無礼者のことは今でも、覚えている。
ジョナサンは嬉しそうだった。
ジョースター家を支えていたのは、彼の財団だ。
自分たちの監視をしてはいるが、何もしてくる訳ではないので、好きにさせている。
口移しが終わったが、そのままジョナサンの口の中に舌を入れた。
「んっ……ふっ……」
舌を重ねれば、唾液と一緒に艶やかな声が溢れていく。
少し前の行為を、体が思い出すには充分で、また熱を持ち出す。
口づけをやめ、素肌に手を滑らせれば、彼も同じなのか、熱に浮かされたような顔をしていた。
ジョナサンの分の血を煽り、口移しで与えると、揃いの首の傷に軽く噛み、舐める。
彼は艶かしい声をあげ、名を呼んで、後頭部に手が回ってくる。
何度も交わっても満たされず。何度も飲んでも満たされず。
そうなったのは、いつからだろうか。
こんなにも、自分は飢えている。
「愛している、ジョジョ」
そんな言葉を吐けば、喉がひりつく。
本心を伝えることすら、許されざる行為だと言われているようだった。