餌付け

隣で嬉しそうにチョコレートを食べる義兄弟を見て、よくそれだけ食べられるものだとディオは思っていた。
バレンタイン当日に女性たちからチョコレートを貰ったのだが、両手では抱えきれない量になった。
そうなると食べるのも大変で、あまり貰っていないジョナサンが羨ましそうに見ているので、あげることにした。
チョコの感想を求められる可能性もあるので、一口食べて、後は全て彼に任せていた。チョコレートを食べ過ぎたせいで、味覚は麻痺してきているが、高級品のものも多く、まだ美味しく感じられている。
「ディオはモテモテだね。ぼくなんて君のついでだよ」
ジョナサンも何個か貰っていた。自分にだけは忍びないと思ったのか、本命なのかは知らないが。彼は貰ったチョコレートはもう平らげていた。
「君もたくさん貰っていたら、誰がぼくのこれを処分するんだ」
「大丈夫だよ。全部、食べるから」
その発言に呆れてしまう。
また空の箱を作り、彼は新しいチョコレートに手を伸ばし、包装を剥がしていく。出てきたのは自分が好きなお菓子屋の店の箱。お菓子に使われている素材は一級品ばかりで、貴族御用達のお店だ。
ジョナサンの手からそれを取る。
「これはぼくが食べる」
箱を開けると、三つだけ丸いチョコレートが並んでいた。
「えー、ぼくもそこのお菓子は大好きなんだ。一つくらい分けてよ」
「他のチョコレートはたくさんあるんだ。それを食べればいい」
こちらに伸ばしてきた手に違うチョコレートを掴ませ、自分はそのチョコレートを食べる。食べたのは少し苦いが、程よいもので、上品な香りが鼻腔をくすぐる。
誰から贈られてきたものかと、入っていたメッセージカードを見ていると、チョコレートが横から取られた。
「ジョジョ、それはぼくのだ。返せ!」
メッセージカードを放り、それを取り返そうと手を伸ばした。
「いいじゃあないか、一つくらい!」
彼ともみ合っていると、膝に乗せていた箱が落ち、チョコレートも床に転がり、それはベッドの下までいってしまった。
「チョコレートが……」
ジョナサンがそちらに気が取られている間に、彼の手からチョコレートを取り、自分の口に放り込み、笑みを浮かべる。
「ああ……! 最後の一つ……」
彼は悲しそうな顔をしていたが、立ち上がると落ちたチョコレートを拾いにいく。拾って戻ってきた彼は、それを破れた包装用紙に包むと机に転がした。
「食べたかったな……」
彼は未練がましくそれを見つめ、指で転がしていた。
「……」
口内で少し溶けたチョコレート噛んで割り、落ち込んでいる彼の肩を叩く。こちらを向いた彼の頭に手を回し、引き寄せて唇を重ね、片割れを口の中に押し込んだ。
「……くれてやる。さて、残りはまだまだあるぞ。頑張って食べてくれよ、ジョジョ」
何をされたのか分かっていないのか、彼は呆けていたが、みるみると顔は赤くなっていく。
「な、なにを……」
「君が拗ねて、食べてくれなかったらこれはゴミになるだけだろ」
積み重なっているチョコレートを指す。
「そ、そうだけど……」
何か言いたそうな彼に顔を近づける。
「なんだ、また口移しで食べさせてやろうか?」
そう言えば、体を跳ねさせ、自分から離れようとしてソファーから転げ落ちた。顔を真っ赤にして自分を見上げている。
「いい……! あ、あの今日はもう……ごちそうさま!」
立ち上がった彼は逃げるように、部屋から出ていった。
「阿呆が」
口の中に残るチョコレートの甘さと共に言葉を吐き捨てた。





後書き
遅刻バレンタイン
去年はあれだけよく書けたなー
私はチョコレートを口移ししたい病にかかっているようです


2015/02/26


BacK