二人の世界
「食べさせてくれよぉ、スージーQ〜」
「もう仕方ないわねえ……はい、あーん」
後ろを振り向けば、スージーQがジョセフの口の前までチョコレートを持っていっており、ジョセフはそれを食べようとしていた。
前を向き、シーザーはため息をつく。
いつの間に二人は、そんな仲になったのか。
貰ったチョコレートより甘い雰囲気にのまれてはいけないと、チョコレートを手に持ち、その部屋を出る。
「やーん、指まで食べないでよ!」
「だって、うめーんだもん」
そんな言葉を聞きながら、扉を閉める。
チョコレートを自分の部屋で食べようとしたが、そこにリサリサがやってきた。
「入らない方がいいですよ」
彼女が首を傾げると、綺麗な黒髪がサラサラと流れる。
扉を静かに少しだけ開け、中を見てくださいとジェスチャーで伝える。
そっと彼女は中を覗くと、音をたてずに扉を閉めた。
「邪魔しないほうがいいでしょう?」
「そうね。紅茶を持ってきたのだけど、いらなかったかしら」
彼女は持っていた瓶を見つめる。
「じゃあ、おれと飲みましょう」
台所からティーセットは持っていくと、彼女の部屋に戻るように伝え、持っていたチョコレートを預け、台所に向かった。
リサリサが入れてくれた紅茶は、いい香りを漂わせ、チョコレートとの相性も抜群に良かった。
「このチョコレート、おいしいですよ」
貰ったこれは、二人が作ってくれたものだ。中にアーモンドが入っており、ハートの形をしている。
「頑張ったのは、スージーQよ。私は手伝っただけ」
それでも、自分たちのために作ってくれたものだ。気持ちだけでも、嬉しいというのに。
小さなチョコレートを口の中で転がす。
「先生から貰えるだけで嬉しいですよ」
この人から何を貰っても自分は嬉しいだろう。
今、食べているチョコレートも、食べるのがもったいないくらいたが、食べなければ腐ってしまうだけだ。
「ありがとう、シーザー」
「お礼を言うならおれの方ですよ」
沈黙がおりる。
会話が続かない。
リサリサはどちらかと言えば、寡黙な方だが、なぜかそれにつられるように自分も口数が少なくなってしまう。
女性相手なら、退屈させないようにと、スラスラと言葉が出てくるのだが。
横で紅茶を飲む彼女を見ながら、話題を探していた。
「JOJOとスージーQは仲がいいのね」
ティーカップを置く、リサリサ。
「そ、そうですね、こんなことしてましたから」
チョコレートをつまみ、彼女の口の前まで持っていき、あの部屋の二人の再現をした。
冗談だと伝えるために笑顔でしていたが、そのチョコレートにリサリサは口を近づけていく。
指にふっくらとした柔らかい赤い唇が触れ、チョコレートを持っていった。
「――!」
その行為と感触に顔が熱くなる。
「こんなこと、してたわね」
彼女が笑ってそう言うので、自分に付き合っただけだと分かるが、自分にとってはそうだと片付けられない。
吃驚したと笑って言えばいいのだろうが、声が出ない。鼓動がうるさく、暑い。
とりあえず、自分を落ち着かせようとしていると、自分の口の前にチョコレートが。
驚いたようにそれを見ていると。
「食べさせあっていたから」
リサリサが見たのは、自分が見たものとは違うらしい。
本当にいいのだろうかと迷ったが、ドキドキしながらチョコレートに口を近づけていく。
彼女がしたように口でチョコレートを回収する。
違う女性なら、指まで食べて、君もおいしいよと言えるのだが、リサリサにできるはずもなく、彼女の顔を見れないまま、元の体勢に戻った。
口の中にあるチョコレートの味さえも、分からない。固まりを噛み砕き、飲み込んだ。
妙に喉が渇き、紅茶を一気に飲む。ぬるくなった液体が、喉を通る。
先ほどのことをまた思い出し、うつむいた。
リサリサは、顔を赤くしてうつむいているシーザーを見ていた。
彼でも恥ずかしいのだろうか。
女性の扱いに長けている彼なら、こういうことにはなれているだろうに。
視線に気づいたのか、目だけがこちらを見たが、すぐにそらされた。
そんな反応が、小さな子供ように思えて、可愛らしいと笑う。
部屋の中を覗き見る二人がいた。
「入らない方がいいわよねえ……」
「驚かせた方が面白くね?」
スージーQは、部屋に入ろうとするジョセフを必死に止めることになった。