あなたと平等に
「はい、どうぞ」
そう言って、女性はかたわらにいた少女に包みを差し出す。
不安げにこちらを見てきた。遠慮なく受けとれと、手を離せば、彼女は、両手でそれを受け取り、小さくお礼を言った。
「少ないけど、ごめんね」
申し訳なさそうに女性は微笑み、自分たちの前から立ち去り、それを待っているであろう子供の方に向かう。
訪れたのは、小さな村だった。世界の崩壊の影響は、あまり受けていないようだったが、やはり暮らしは、前より貧しいものだという。
しかし、人の営みがあり、そこは、ちゃんと店も機能していた。今日は久しぶりに屋根がある場所で寝れるようだ。
その日は、収穫祭をしており、慎ましいが人々が楽しそうに、踊ったり、酒を飲んでいた。
少しそのおこぼれを貰い、角の方にいた。部外者があまり入るものではない。彼らも僅かにあるもので、頑張っているのだから。
しかし、村人たちは自分たちを気遣ってくれ、宿にこもろうとした自分たちを引っ張りだし、広場まで連れてきたのだ。
あまり騒がしいのは、好きではない。それに少女を付き合わせているのは、分かっているが、手を離すわけにはいかず、彼女に一応、行きたいかと問うたけども、行きたくないと首を横に振った。
マナがもらったのは、子供だけに配られていた。
包みを彼女があけると、中に入っていたのは、小さなクッキーだった。
この日のために、大人が子供のためにと、一生懸命作ったものだろう。
マナがこちらを見る。
彼女がもらったものだ。子供へと。好きに食べればいい。
こちらの考えが伝わったのか、彼女はこちらを見るのをやめ、クッキーを食べ始めた。自分も分けてもらった、パンを食べる。広場の中心では、楽しそうに村人たちが踊っている。
「ねえ」
服の裾が引っ張られ、見れば、マナは、包みをこちらに差し出していた。
首を横に振る。それは、彼女がもらったのだ。
「食べ物は、いつも半分じゃない」
食事はどれだけ少なかろうが、多かろうが、半分にしている。文句を言われない為にもだ。
無理矢理、手に握らされる包み。
隣にいる彼女は不機嫌そうな顔をして正面を見ていた。
返そうとすれば、受け取らないだろう。ありがたく貰うことにする。
お礼を言おうにも、言えない。こういうところで、不自由だと思う。アンヘルが代弁してくれていたことが、どれだけありがたかったか。
少し考え、マナの頭を撫でると、目を見開き、驚いた表情で、こっちを見た。
「何のつもり……なの?」
段々と悲しそうな表情になっていく。嫌だっただろうか。幼い頃、これをしてもらったら喜んだのだが。妹も、喜んでいた覚えがある。
顔はそらされ、また彼女は正面を見る。
機嫌をさらに損ねてしまったらしい。そうなってしまうと、会話はもうできない。自分と同じ、最低限の意思表示しかしてこない。
彼女にもらったクッキーを食べる。口の中に広がる、ほのかな甘味。
自分の手が、マナの手に触れる。そういえば、手を離してしまっていた。その手を握ると、握り返してくる。
どうやら、機嫌は損ねていないらしい。そうなっている場合は、この手から逃げ出そうと小さな反抗してくるのだ。
クッキーを食べようとしたが、もうなくなっていた。
その味を忘れるかのように、酒を飲んだ。
祭は、まだ続くようだ。