ドラゴンの哀

隣のテントから独り言が聞こえる。
だいぶ前から、同じ言葉を繰り返していた。
「可愛い……私の子供……」
こんな戦場に子供がいるはずがない。幻でも見ているのだろう。
一般の兵士が自分の立場なら、気が狂い始めるだろう。極度の不安にもかられるだろうか。
隣のテントにいるアリオーシュはヴェルドレによって、奇行に走ることは今はないが、いつ彼女がその枷を外すか分からない為、カイムとヴェルドレの近くにテントは配置された。
カイムは初めて襲われた時、油断していたこともあり、噛み付かれそうになった。間一髪でまのがれたが、カイムさえ振りほどけなかった、あの人間離れした力。
指が腕に食い込んでいるような、感覚がしてくる。
「どうした、怖いのか?」
頭に直接、届いた声に現実に戻される。
その瞬間、狂った笑い声が響いた。
枷が外れたのかと、剣を片手にテントを出てみると、赤い火に照らされ、赤い鱗が見えた。
呪文が聞こえてくる。
「ヴェルドレが入っていきおった。大丈夫であろう」
笑い声も聞こえなくなり、静寂が辺りを支配する。

アリオーシュのテントからヴェルドレが出てきた。大丈夫です、と一言、言うと自分のテントへ戻っていく。
「寝ないのか?」
レッドドラゴンはカイムのテントの近くにいた。
今まで、こんなに近くにいることはなかった為、カイムは内心、驚いた。
テント付近は兵士が見回る為、人間との交わりを極力避けるドラゴンは、皆がいる陣より離れた場所にいたからだ。
見上げると、ドラゴンと目が合う。
「……あのエルフは油断ならん」
ゆっくりと臥せ、眼を閉じていく。
カイムはその言葉からある答えに行き着いた。
自分がアリオーシュに襲われないように、ここにいるのだろう。
それは、つまり。
「戦い以外の傷は、ごめんだ」
カイムが傷付けば、自分も傷付いてしまう。
そんな理由だろうが、ドラゴンが人間を心配している。しかも、人間を見下している種族が。他ならぬ自分に。
そう思うと、少しくすぐったい気持ちになる。
「うるさい、早く寝ろ。明日も早いのだからな」
もっともな理由だが、歯切れの悪い言葉。本心を当てられて拗ねているようだ。
ドラゴンも人とあまり変わらないということか。
返答の代わりに、手を振り、テントに戻る。
「貴様が死ねば、我も死ぬのだ」

その言葉には少し悲しげな響きが含まれていた。





後書き
短いのは、初めての作品だからです
という言い訳をしてみます
アンヘルが、アリオーシュからカイムのことを密かに守っていてくれたら、という妄想から
アンヘルが、かわいいゲーム
ドラゴンに初めて萌えたゲームです


2012/07/15


BacK