おやつの後は

甘い匂いが漂っている。何かお菓子を作っているのだろう。
扉が開き、見ていた本から視線を離す。
「オーストリアさん、休憩しませんか?ガトーショコラを作ってみたんです」
入ってきたハンガリーが持っているトレイには、ティーセットと食欲をそそる香りを漂わすガトーショコラのホール。
「そうですね」
本に栞を挟み、本棚に本を戻しに行く。その間にハンガリーは用意を着々としていく。
ソファに戻った時には、用意された紅茶と切り分けられたガトーショコラ。
「いただきます」
「自信、あるんです」
少しよそよそしく、ハンガリーは隣に座る。
そんなハンガリーを横目に、ガトーショコラを一口食べる。口の中に広がる甘さは、ほどよく、しつこくない。
「美味しいですね」
目を細め言うと、ハンガリーは小さくガッツポーズ。
「オーストリアさんにそう言われると、嬉しいです。沢山、食べてくださいね」
これなら、いくらでも食べれるだろうが、一人で食べるのは申し訳ない。ハンガリーに勧めると、最初は渋っていたが、最後には折れ、ホールの半分を食べ尽くしていた。
そういう自分も、いつの間にか、その半分を食べていたのだが。
皿も空になり、紅茶もなくなる。
「ご馳走様です」
「オーストリアさんがご満足いただけたようでなによりです」
頬を赤くして、笑う。そんな幸せそうな顔を見つめていると、目をそらされ、片付けを始める。
「洗ってきますね!」
慌ただしく出ていったが、扉がそのまま開いたままだ。扉を閉め、ソファに戻る。
自分は何かしただろうか。
彼女はいつもそうだ。顔を見るだけで、赤面し、逃げるように自分の視界から出ていく。何年経っても変わらない。それが、面白く、愛しく思っているのだが。
互いの気持ちはとっくの昔に知っているはずなのに。
すぐ隣にいても、やはり少し離れているのか。
欠伸を噛み殺しながら、どうしようかと考えていたが、睡魔に誘われるまま、瞼を閉じた。

ハンガリーが戻ると、オーストリアはソファで寝ていた。
そのまま、出ていこうかと考えたが、寝顔を見れる機会を逃すわけもなく。 睡眠の邪魔をするカメラは駄目だ。かくなる上は、自分の目に焼け付けるまで。
少し距離をおき、ソファに座り、ゆっくり近づいていく。
肩が触れるか触れないくらいになって、顔を覗き込む。
寝息が聞こえる。整った顔立ちは変わりないが、まつ毛は長く、唇はほんのり色付いていて。
女の自分でも負けているかもしれない。
眼鏡が邪魔ではないのかと、少し笑う。
「あまりいい趣味ではありませんよ、お馬鹿さん」
体が跳ねる。
「お、起きてたんですか!」
オーストリアは気づいて、眼鏡を取り、机に置く。
「ええ、貴女が横に来た時に」
距離を取ろう動こうとした瞬間に、手首を掴まれる。
「罰として肩を貸しなさい」
「え……ええっ?」
頭が理解する前に、オーストリアは動いていた。ハンガリーをソファにもたれかかせ、自分から体を預け、肩に頭を寄りかかせる。
「動かないでくださいよ」
「は、はい!」
体制を崩さない為、体を固くする。体が触れている、それだけで鼓動が高鳴る。こんなに、近いのだ、聞こえているのだろう。こんなにうるさくて、眠れるのだろうか。
心配しつつ、見てみると、もう眠っているようだ。
困惑しつつも、これは良いかもしれないと思う。寝顔を見れるのだから。
緊張が解れてきたのか、うとうとしてくる。
寝顔をもっと見たい、動いてはいけないと、頑張っていたが、限界は早かった。

オーストリアが起きると、ハンガリーが寄り添いながら寝ていた。
眼鏡をかけ、その寝顔を見ながら、笑う。
「ハンガリー」
名を呼ぶと、少し身動ぎする。しかし、起きる気配はない。
髪に触れると、彼女の香りが鼻をくすぐる。
頬に手を添え、顔を近づけていく。
「起きないと、このまま……」
唇に触れるか触れないくらいで、口に手を押し付けられ、顔を押し退けられる。
「分かりました、分かりましたッ!」
顔を真っ赤にして、顔を反らすハンガリーを見て、笑ってしまう。
しかし、このままでは息苦しい。口を塞ぐ手を叩くと、気づいたように、手を離す。
「あ、すみません!」
空気を吸い込み、慌てている彼女をなだめる。
「謝らなくていいですよ」
迫ったのは自分だ。しかし。
「バレないと思ったんですか?」
狸寝入りをするとは、自分の真似だろうか。
「……えっと」
言葉を濁すハンガリー。それが気になり、また顔を近付ける。
「何ですか?」
頬に手を添え、逃げないようにする。
「あ……え……」
目が泳いでいた。
「い、居心地が、良かった、ので!」
顔を真っ赤にし、見る目はまっすぐで。
「そうですか」
にっこりと笑い、顔と手を離す。
「……オーストリアさんに触れることなんてあんまりないし」
呟くように言われた言葉を耳が拾う。
それならば。
「あ、え、オーストリアさん!」
こちらから触れてしまえば、と抱きしめる。
「居心地が良いのでしょう?」
そう耳元で囁くと、大人しくなり、少し体を預けてきた。
ゆっくりだが、背に手が回っていく。
遠慮なんてせずに、もっと触れればいい。
その体が自分の温もりを覚え、求めるくらいに。
いっそのこと、この温もりがないと生きていけなくなる程に。
「愛してますよ」
囁けば、彼女は一層、赤くなる。
言葉にならない言葉を発しながら、胸に顔を埋めてきた。
やはり、面白い。
少しして、くぐもった声が聞こえた。
「私も、愛してます」
抱きしめる力が強まる。

自分だけの恥ずかしがり屋から貰える愛情は、昔から変わることなく。

そして、この気持ちも。

そんなに顔を胸に押し付けて苦しくないのだろうか。
早く上を向いて、自分を見てくれないだろうか。

突然始まった我慢大会。
勝つのはどちらか。





後書き
テレビでガトーショコラを見て美味しそうだったので
似合いそうなこの二人で書いてみました
二人の仲はいつまでも微妙な距離
ヘタリアではこの二人が大好きです
もっとイチャイチャすればいい


2011/05/09


BacK